神々の島バリ島で、アメリカ人ビジネスマンが大厄災にあった話

バリ島

バリ島東部、カランアサム県シドメンは、戦前に画家のウォルター シュピースが移り住んだこともある、風光明媚にしてスピリチュアルな土地である(少し正確に書くとシュピースが住んだのはシドメン郡シドメン村ではなく、シドメン郡イセ村)。

ぼくは、アグン山を眺めるコテージに泊まって、シドメンの朝を迎えた。
そこから見た景色は、まさしくシュピースがカンバスに描いたとおりの濃密なバリ島の風景だ。樹木の影に精霊が宿り、村人にいたずらをする。そんな光景が見られそうだった。

シドメンは観光地ではないが、スピリチュアルな土地を好む外国人が滞在するコテージがいくつかある。ぼくも、ときにこの村に何日か滞在し、散歩しながら、その雰囲気に浸るのが好きだ。
あるとき、ジャングルを歩いていたら、廃墟をみつけた。

誰かの住居跡かと思ったが、ローカルの家にしては石の積み方がそれらしくない。しかも水道管が通してある。

村の人に訊いたら、ここは、かつてカナダ首相も訪れたことのある、ツーリスト向けコテージだったと教えてくれた。
周辺を歩くと、まだ屋根が残っているコテージもあった。

建物の素材によって、完全に朽ちていたり、屋根だけ落ちていたり、崩壊の程度が異なるようだ。

話によるとここは、アメリカ資本のリゾートコテージだったそうだ。

経営者は、ビジネスには熱心だったが、土地に対する敬意がなかった人らしい。このあたりはシドメンの中でも特に神々が集まる土地で、そのためにお寺も建っている。アメリカ人は、そのお寺の横の土地を切り開いてリゾートコテージを作ったが、土地の神さまに挨拶をするでもなく、お参りもしなかったそうだ。

村人たちは、早くから「このコテージは先行きが危ない」と囁いていたという。土地の神をないがしろにして、ただで済むわけがない。しばらくして、お寺に隣接するコテージから火が出て、何軒かが焼け落ちてしまった。ぼくが発見した廃墟は、そのひとつらしい。

その火を見て、村人は「やっぱりなあ……」と思ったとか。
その後も、コテージはいくつもの災難に見舞われ、経営上の問題もおきて、ついには資本家は撤退してしまった。

土地の神の許しを得ずにジャングルを切り開いてつくったコテージは、今、ジャングルに戻ろうとしている。

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Posted by ariga masahiro