眼力を視力検査で計れるか

美術に関わりがある人と、そうでない人とは、眼の感覚がかなり違います。

どう違うかというと、まず、見分けられる色の数がぜんぜん違います。それから空間や奥行きを感じる力がぜんぜん違います。そして感動する力が違います。

料理には「味が分かる人」と「味が分からない人」がいますよね。味覚は千差万別です。濃い味に敏感な人、薄い味が分からない人。いろんな人がいますが、視覚もそれは同じなんです。人によって感じる範囲、つまり見えている範囲がかなり違うんですねえ。

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視力検査ってどれだけの意味があるのか

本来視覚は、味覚と同じで基準があいまいすぎて計測できません。

しかし現代社会では「分かりません」で済ますわけにもいかないので、視覚のある一部を計ることで分かったことにしています。それが視力検査です。

視力検査で「あなたは視力1.5です。優秀です」と判定されても、それはどれだけ小さなひらがなが読めるかを、片目ずつ読み上げるだけの簡単な方法で出した数値にすぎません。

これは、デジタルカメラ(やレンズ)の評価項目でいえば解像力を計っているだけです。写真をやっている人ならご存知のように、解像力はいくつもある評価項目のひとつに過ぎません。

解像力の高いレンズ≠よいレンズ

昔から、解像力が高いレンズが必ずしも「美しく写るレンズ」と評価されたわけではありません。例えば、1981年に発売されたニコンのAi マイクロ55mm/f2.8は、細部まで克明に描写されると高い評価ですが、一方でささくれだつような絵になることがあるという評価もありました。

これは当時のマクロレンズの主な用途が複写だったため、解像重視で設計されたからです。精密に写るけれども情緒に欠けるという印象なのでしょうかね。

ちなみにAi マイクロ55mm f/2.8は今もカタログに載っている現行品です。Nikon F3と同じ頃に発売されたレンズがいまも現役とは、よほど優秀な製品なのでしょう。

現代の名レンズとは、階調が豊富で、鮮やかで、繊細で、立体感があり、色再現性が正確でニュートラル、コントラストが高く、のびやかに、生命力あふれる描写をするものです。被写体が人間であれ、花鳥風月であれ、その生命力を写し取ることがでなければ評価されません。

2008年に発売されたAF-S マイクロ 60mm f/2.8Gは、高コントラストで線がきれいな、現代でも最高のレンズと高評価です。おなじマクロレンズでも、30年間で設計思想がずいぶん変わりましたね。

人間の眼もこれと同じです。階調が豊富で、対象から生命力を感じとることができなければ、よい視覚をもっているとはいえません。

ピカソやダリのようなすぐれた画家は、うまれつき視覚がなみ外れて良かったのではないかと思います。

さて、撮影用レンズがイマイチなら買いかえれば済みますが、自分の目はイマイチでも取り替えることができません。が、視覚は鍛えれば向上します。ピカソ並みとはいかなくても、心身が健康で、いいものを見て毎日を過ごせばかなり視覚がよくなることでしょう。たのしい写真生活は、まず健康を保つことから始まります。