河畔の闇を照らす火の儀式、アールティ

ヴァラナシ(ベナレス)で最も多くの巡礼者を集めるダシャシュワメードガートでは、日が沈む頃に、聖なるガンガに向かってアールティ(火の儀式)が行われる。

音楽を奏で、香を焚いて、大きな火をガンガに捧げるのだ。

この儀式は、90年代には暗闇の中でひっそり行われているような、あまり目立たない儀式だった。それが、年を追うごとに様相が変わってきた。火を持つ若者の数が増えて、飾り付けが盛大になり、やがて見物席が何列も設けられて、ヴァラナシを代表する儀式のひとつになっている。

さっき、夕暮れのラリタガートを歩いていたら、ここでもアールティが行われるようになっていた。5人の若者が、火をもってガンガに向かいマントラを唱えている。
こちらは見物客はほとんどいなくて、椅子がたった3つ並んでいるだけだった。

そのひとつに、先日知り合ったばかりのインド人が座っていた。彼は、隣の空席にぼくを座らせると、賄いに命じて、大きな鍋からサブジー(ベジタブルカレー)とご飯を大きな葉っぱに盛りつけてくれた。このサブジーは付近の乞食達に施しているものなのだそうだ。

躊躇するぼくの様子を見て、これはよい野菜をつかっているし、きれいな水で調理しているから安心だ、とても健康によいのだ、と強調していた。
インド人が唱える能書きほど当てにならないものはないが、疑ってばかりいてもつまらないから、真っ暗な川岸で、料理を頂くことにした。
ぼくはインド料理は大好きなのだが、手で食べる習慣は、いまも馴染めない。

ふだんやらないことだからという意外にも理由がある。右手がカレーでべたべたすると、とっさの時にカメラを持てないという、心理的ストレスを感じるからだ。油でぎとぎとになった右手でグリップを握ってダイヤル操作をしたら、イヤじゃない? 

だから、いつもは手で食べるといろいろ気になってあんまりおいしく感じられないんだけど、このサブジーはたしかにおいしかった。大衆食堂のターリーよりもずっとよい香辛料を使っている。

彼によれば、ラリタガートのアールティは2008年に始まったそうだ。
仕事がもっと儲かれば、より大きな資金を使えるから、もっと盛大な儀式に出来る、と熱く語ってくれた。インド人は派手好きだから、お金があれば宗教的儀式だろうが結婚式だろうが、際限なく盛大になっていく。

ダシャシュワメードガートのアールティが年を追うごとに盛大になっていくのは、インドの経済状態が躍進していることを反映しているのだ。この調子でいくと、ゆくゆくはどのガートでも盛大にアールティが行われるようになるかもしれない。それが、ヒンドゥー教の在り方なのだ、と感じる。