著作権裁判は思いがけない方向へ進む

著作権侵害対策

著作権侵害裁判の審理の日がきた。場所は立川簡易裁判所。裁判所というのは役所だからGW中もカレンダー通りに裁判を進行している。天気はいいし、初夏の風が吹くなか、裁判所への足取りも軽い。

裁判はこうして始まる

新緑に囲まれた立川裁判所は、一階が簡易裁判所、上の階が地方裁判所だ

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ぼくの裁判は損害賠償金額がたったの12万円という低額だから一階の簡易裁判所の管轄だ。

口頭弁論(裁判のこと)は朝10時から始まるので、その15分前に裁判所に到着した。法廷はこの建物の一階奥にある。事件と名前を確認して扉を開け、傍聴人席に座った。

この日、朝10時に始まる審理は5件もある。 テレビや映画で見る重大刑事事件の裁判と違って、小さな民事事件はまとめて数件が進められる、その他大勢的な感覚にあふれる裁判だ。だから傍聴人席に座っているのは裁判の原告や被告など関係者だけで、とくに見学者はいなかった。

始まるやいなや、和解の提案が

10時になると同時に、黒服を着た裁判官が法廷にきて席に座った。

はじめの審理は、原告も被告もそれぞれ席に着いたところで裁判官がひと言ふたこと話したら、あっという間に終わって原告と被告はさっさと退室していった。みんな慣れているみたいだね。裁判に不慣れなぼくは裁判官が何を話したのかすらよくわからなかった。 続いてぼくの審理が始まった。

この日、出席したのはぼくだけで、被告側からは誰も来ていない。民事では被告は裁判にこなくてもいいんだそうだ。とくに第一回は普通は絶対こないとか。

ぼくが席に着くや、裁判官は「このB社って何と読むの?」と質問をした。

意外なほど簡単な質問に拍子抜けした。

たしかに、会社名や人名の漢字の読みは訊かないと分からないね。 「で、あなた、B社と和解する気はあるの? ここに司法委員がいるから、別室で一緒によく話し合ってきてください」 と裁判官は仰せになった。

和解の提案はあっさり拒否される

後で法曹関係者に聞いたら、簡易裁判所の裁判官はちょっとアレなんで、審理を尽くすことなくすぐに和解にもちこんで終わらせようとする傾向が強いんだそうだ。まあ、請求金額12万円ぐらいの小さな案件に時間をかけて審理したくないのかもね。裁判官の気持ちもわからないでもない。

さっそく別室へいって、司法委員のおじさんが被告の弁護士事務所に電話をした。何事も穏便に解決したいものだ。

被告の弁護士は「Yahoo!で無料画像を検索してみつけた写真を使っただけだから、この写真は無料の筈だ。パクリではないから料金を支払う必要はない」と答弁書で主張してくる厚顔な人物だ。そんな主張はすでに昨春のアマナの裁判で否定されている。提訴状に事件番号つきで「そんな無駄な主張をするなよ」とわざわざぼくが書いているのに、いつまでも同じことをいってる弁護士は、もしかして法律の素人なんだろうか? 

だとしたら著作権という高度に抽象的な概念はこのヒトには難しすぎてワケがわからないのかもしれない。それなら観念してすぐに和解に応じるかもしれない。

と思って電話の会話を横で聞いていたが、あにはからんや岡山の弁護士は和解の提案をけんもほろろに拒否した。A社が外国法人であることを利用して逃げ切る算段らしい。司法委員のおじさんは額に汗しながら時間をかけて和解のとっかかり口を探していたが、とうとう断念して受話器を置いて言った。

「….難しいですね…」

こうなったら仕方がない。一瞬でも和解がありうるかも?と思ったぼくが甘かった。この裁判を貫徹しよう。 よく考えてみれば、この裁判はもともとB社の社長に電話で「当社を中傷するなら訴訟の準備がありますよ。有賀さんは裁判になってもよろしのですか」などと慇懃に挑発されたので「そうおっしゃるならこっちから訴訟します」と応じたことから始まったのだ。

続きは弁護士に依頼することにした

別室から戻ったぼくに、裁判官は言った。 「え、被告は和解する気はないの? そうかー。」「でもこの事件はキミには難しいな。キミも次回までに弁護士を立ててきて。では次回は1ヶ月後でいい?」

この事件がなんで難しいかというと、前回も書いたように、実は争点は著作権侵害ではないからだ。被告は外国法人の子会社をつかって責任を回避しようとしている。社会の常識なら「責任逃れに終始するズルイ会社だ」となるが、法律を上手に使って責任を回避しているのなら裁判所はそれを認めざるを得ない。

確かに、難しいかも〜。 それに、くだらない答弁を繰りかえす被告と根気よくつきあう時間がぼくにはない。これまでは本人訴訟をつらぬくつもりで提訴状を書いてきたが、フォトグラファーのぼくは法廷に来るよりもカメラを持って撮影に出かけたいのだ。 というワケで、なんの審理もせずにさっさと話をまとめる簡易裁判所の裁判官に対して、ぼくは「では次回は弁護士を立てます」と答えた。

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