聖なるカイラス山のふもとでは

チベット

カイラス山は、仏教では宇宙の中心にある須弥山にみたてられ、ヒンドゥー教ではシヴァ神とパールヴァティー妃が住む聖なる山とされている。

そしてチベット人には大日如来の化身とみなされている。
この山は宇宙そのものだ。チベット語ではカン リンポチェ(宝の雪山)といい、標高は6638mある。そのふもと、ぼくが立っているところは標高4400mくらい。

おそらくカイラス山を最初に神聖視したのは、昨日も書いたように、何千年も前にはるばるインドからこの地を訪ねてきた行者であろう。マナサロワール湖からみたカイラス山はリンガ(男根)そのものの形をしている。この広い空に突きでたカイラス山を行者たちが神格化して見たのも自然なことに思える。

そのようなわけでカイラス山はマナサロワール湖にむいた南面が正面とされている。
風の音しか聞こえない静かな湖畔で、巡礼のチベット人が「オムマニペメホム」という六字真言を唱えていた。ぼくもその隣で、背筋を伸ばし合掌して咒を唱えた。

カイラス山南面のふもとにある小さな町タルチェンは、巡礼の出発地になっている。チベット人はカイラス山を徒歩で一周するのだ。この町にはチベット人巡礼もたくさんいるが、中国の公安関係者も大変多い。チベット人の集まるところに公安も集まってくる。そして有言無言の圧力を人々に加えている。

今年はチベット暦の午年にあたるため、本来ならカイラス山への巡礼者が例年の数倍になり混雑するといわれていた。ぼくは巡礼者の写真がたくさん撮れるかと期待していたが、実際には中国当局が警戒して厳しく規制したことで逆に巡礼は例年よりも大変少なかった。ぼくの入域許可証が発給されたのも奇跡に近い。

それでも、ぼくのようになんとか許可を得てこの地に巡礼に来たチベット人もいる。みな美しく着飾っている。

ところで、シヴァ神とパールバティー妃はカイラス山に住んでいるということだが、すると二人は中国籍ということになるのだろうか。以前から疑問に思っていたのだがインド人にそれを聞くのを忘れてしまった。もしかしたら、住んではいるけどここには住民票は置いていないのかもしれない。ヒンドゥー教の神さまが中国籍では格好悪いしねえ。

カイラスは神聖な山であるが、そのふもとは中国公安関係者の横暴さが気になる土地でもあった。まったくもって聖と俗が混沌としている。
残念ながらこれが人間界の在り方なのだろう。