一眼レフ VS ミラーレス プロはどっちを選ぶ

撮影機材

このところ、ミラーレスカメラを使うプロカメラマンがちらほらといる。

ぼくの周囲でも、メインカメラがニコンの一眼レフであれキヤノンであれ、ミラーレスカメラを買い足した人がけっこうな割合でいる。長年、ニコンの一眼レフのユーザーであるぼくも、昨春にソニーNEX6を購入して、ミラーレスカメラのユーザーになった。

画質の点では、大概のミラーレスカメラはすでに、多くの分野でプロの仕事に堪える水準になっている。フジフィルムは自社製品を「フルサイズに匹敵する、いやそれ以上の画質」と誇らしげ謳っているほどだ。まあ、フジフィルムは長年プロ用フィルムを作ってきた特別な会社なので、特に高い水準にあるかもしれない。友達のフォトグラファーが安くなったX-E1を買ったんで、彼のメインカメラである某フルサイズ一眼レフとどっちの方が画質がいいかを聞いたら、X-E1の方がきれいに撮れると率直に言っていた。

だからといって、彼がX-E1をメインで仕事に使うことはない。
世の中を見渡しても、今のところ、ミラーレスだけで仕事をするプロほとんどいないと思う。大概は、ミラーレスを趣味のカメラとして使っている感じだ。

カメラの信頼性

ミラーレスカメラをなぜプロが仕事で使わないかといえば、信頼性の点で頼りない。一口にプロといってもそれぞれ置かれている環境がぜんぜん違うから、求める機材も皆違うんだけど、カメラを選ぶときに信頼性を最重視するのは、皆同じ筈。

カメラの信頼性がどう醸し出されるかというと、

  1. システムの万能性
  2. 操作のしやすさ
  3. 壊れない堅牢性・いざ壊れたときの保守体制(プロサービス)
  4. 見た目の立派さ

これらの要素が絡んでいる。

まず(1)のシステム性からいえば、フジフィルム、オリンパス、ソニー、その他どのメーカーもレンズのラインナップが足りない。撮影分野が限定されているフォトグラファーならいいかもしれないが、ほとんどのプロには現状は物足りないと思う。

ソニーは、フルサイズセンサーを搭載したα7を発売したり、このところ物凄い勢いで体制を整えている。しかし、何というか、レンズが揃わないのに新マウントや新型カメラを乱発している感が否めない。

新しい規格の製品をどんどん作って、もし売れなければ規格ごと生産を止めてしまうのだろうか。そういった家電メーカー的手法がソニーの活力の源泉なのかもしれないが、システムの先行き不透明な現状では、仕事で使うカメラにソニー製品を選ぶ人は少ないだろう。

それにα7はデザインがヘン。(4)と共通するが、α7を首から提げて現場に現れたら、クライアントを不安に陥れること間違いなしだ。

(2)の操作性だが、これも、こなれていないカメラがほとんど。

カメラの設計者って、自分で撮影する機会が少ないのだろう。せいぜい子供の運動会にカメラを持っていくぐらいなんじゃないかな。忙しい現場でどういう操作体系にしたら使い勝手がいいかを、まったく知らない、分かっていない。ということがカメラを持つと分かる。その点ではフジとソニーはもちろん、パナもオリも不合格点しかあげられない。

特に重要なのは(3)だ。

スタジオで丁寧にカメラを使うタイプのフォトグラファーには関係ないかもしれないけど、ぼくのように外を歩いて撮影するヒトはよくカメラをぶつける。ニコンのカメラと単焦点レンズはわりと頑丈なんだけど、それでもズームレンズは構造が複雑だから壊れやすい。ましてやミラーレスカメラでは、ねえ。

そのカメラで大丈夫ですか

(4)なんだけど、見栄えはかなり重要な要素だ。

クライアントから「そのカメラで大丈夫ですか」と言われたら面倒だから、できるだけ大きい一眼レフカメラを使うのがプロ。なんとゆーか、「そのカメラで大丈夫ですか」とか聞く仕事発注人が本当にいて、「プロが持ってるんだから大丈夫に決まってんじゃん」といいたいところだが実際にはもう少しソフトに「大丈夫です」と返したりする。

ぼくの経験では、カメラのペンタ部に「Nikon」と書いてあればそれでOKみたい。

以前、取材の途中で、肩から掛けているカメラをD300からD3100に替えたことを、同行の編集者はまったく気がついていなかった。ブランド力の威力をその時に知ったね。特に女性クライアントは気がつかない。「Nikon」でなくて「Canon」でももちろんOK。でも「Lumix」じゃあダメダメ。その編集者はD300とD3100の違いが分からなかったくせに、ぼくがGX7を持った時「それで撮影するんですか」と本当に聞いてきた。あたりまえじゃんねえ。カメラを手にとって他に何をするんだろう。

でも、ご心配をお掛けても申し訳ないので、普段のぼくは、GX7を使うときは必ず反対側の肩にNikon D7100をかけることにしている。

ぼくのような者でもそんな感じだから、広告関係のカメラマンは絶対にミラーレスを仕事では使えないだろう。「仕事を舐めている」とか思われちゃうからね。カメラマンは接待業の一種だから、仕事を発注する人を楽しませなければならないのである。

ところでキヤノンは、ミラーレスにはとんとヤルキが感じられない。
EOS Mを発売して一年以上経つのに、専用レンズが3本しかない現状を見れば、たぶん誰もがそう感じているだろう。

対してニコンは、ミラーレスにも力を入れて開発している。ボディーは次々に発表されるし、レンズはナノクリスタルコートを施した32mm f/1.2も発売している。

といっても、プロのカメラマンが「ニコワンも使っているよ。あれはいいカメラだねえ」と嬉しそうに語る姿をぜんぜん見かけないから、やはりニコワンには何か物足りなさを感じるのだろう。仕事用のカメラというコンセプトじゃないから、それでいいんだろうけど。

オリンパスやパナソニックが背水の陣を敷いてミラーレスカメラを開発しているのに対して、ニコンやキヤノンにはそこまでの決意が感じられないのは、この二社で一眼レフの90%近くのシェアを確保している、圧倒的な販売力によるものだろう。ニコンとキヤノンが、いまある一眼レフに取って代わるほどの高性能なミラーレスカメラを発売する理由が、全くないのだ。

プロが使うカメラは

技術的には、ここ数年、ミラーレスは急激に進歩している。
しかしながら一眼レフも同じスピードで進歩している。一眼レフは、常にミラーレスの先を走っている。その差はなかなか縮まらない。

そんなこんなの状況で、広告関係のカメラマンがミラーレスを使えるようになるまでには、早くともあと10年はかかると思う。そして、その時が来ても、カメラマンはやっぱりニコンやキヤノンがリリースするミラーレスカメラを使っているだろう。

ゆくゆくは、ミラーレスが一眼レフに置き換わることは間違いない。
その最大の理由は、ピント精度。画素数が多くなればなるほど高いピント精度が求められるが、一眼レフのように撮像素子とAFセンサーが別の場所にあるシステムは、ピント精度がどうしても甘くなる。それに対してミラーレスのコントラストAFなら、確実なピントが得られる。

ただし現状では、ミラーレスのAFはスポーツの激しい動きについていけないとか、カメラを振ると画像がゆらいで見にくいとか、そんな状態で長時間ビューファインダーを除いていると酔ってくるなど、制約が多くて真剣には使えない。

もうひとつ、ミラーレスの利点はレンズ設計に自由度が高いこと。特に広角レンズは、設計が容易で、かつ高性能な物を造りやすい。これは大変魅力的なことだ(望遠レンズはこの利点に関係ないけど)。

ミラーレスは未だ黎明期

ニコンは今、来るべき新時代のカメラがどんなものになるかを、じっくりと時間をかけて検討している。それはもちろんミラーレスシステムだ。では、具体的にどんなシステムなのか、そして、いつリリースすればいいか。もしかしたら、ソニーのAマウントのように、現在のシステムとシームレスに繋がっていくかもしれない。
あるいは、新マウントを採用して、Fマウントのレンズはアダプタを介して使用できるようにするかもしれない。いずれ、タイミングをみて発表されることだろう。それが何年後のことかは分からない。ニコンの人も決めかねているだろう。

キヤノンが一眼レフに替わるシステムの研究をしているか知らないけど、力のあるメーカーだから、初動で出遅れたとしても、後から充分挽回してくるだろう。

実際、1986年頃のカメラのAF化の時も、2000年前後のデジタル化の時も、ニコンより随分と出遅れ感があったけど、後からバッチリ挽回したのは皆さんご存知の通り。きっと、誰もが驚くような新システムカメラを開発していることと思う。

プロが本格的に仕事でミラーレスを使う時代が来るのは、ニコンとキヤノンが揃って本格的ミラーレスシステムを発表してからのことになる。そんなワケで、当面の間、プロのフォトグラファーが仕事で使うカメラは、ニコンかキヤノンの一眼レフだ。

そして、将来やってくるだろうミラーレスの時代も、プロが使うのはやっぱりニコンかキヤノンのミラーレスカメラだ。それまでの間、ぼくは貯金をして待っているか、それとも待ちきれずにオリンパスかフジフィルムのミラーレスを買ってしまうか、悩ましいところだ。

この記事は2014年1月に書かれたものです。
デジタル環境は変化が速く、現在とは異なる状況であることにご留意ください。この記事は、当時はこうだったというアーカイブとして残しておきます。

その後、ぼくはメイン機材をミラーレスカメラのマイクロフォーサーズに移行しています。ミラーレス各社のシステムはまだニコンには及びませんがさして遜色ないところまできたことと、なかなかニコンがミラーレスを発売しないことから、苦渋の選択です。2018年現在、ぼくはLumix GH5をメインカメラにしています。

Sponsored Links