引用は自由、作者の許可は不要【無断転載とここが違う】

NAVERまとめ対策,著作権侵害対策

インターネット界には、引用と転載の違いが分からない人が多い。

引用は誰にも断らずにしてよいが、転載は著作権者の許諾が必要ということが理解されていない。区別がつかないばかりか「出典」と書いておけばどんな画像でも無断使用できる、と思いこんでいる人も少なくない。そこで引用と転載の違いについて詳しく説明してみよう。

引用は法律で認められている

写真やイラストを作者に無断で転載するのはルール違反。しかしどんなルールにも例外がある。著作権法の例外は著作権法30〜47条に書いてある。そのなかで、ぼくたちに身近な例外は主に2つある。

ひとつは私的複製自分個人で楽しむ分にはいくらでも無断で画像を複製してもかまわない。ネットでみつけた写真を自分のパソコンやスマホの壁紙にするのはOK。好きなように修正してOK。それを同居する家族にあげてもOK。しかしそれをネットにアップするのは私的複製の範囲を超えるからNG。

例外のもうひとつは引用こちらが今日の本題。

著作権とはなにか

まず、前提として著作権とは何かを知ろう。

簡単にいえば『著作権者が作品の利用権を専有している』ということ。著作権は財産権のひとつで、財産をどう使うかは著作権者のみが決められる。

小説なら作家が、写真ならフォトグラファーが、イラストならイラストレーターが、作品をどう利用するかの決定権を持っている。

雑誌Aには掲載するが雑誌Bにはしない、サイトCには利用料10万円を請求するがサイトDなら無料で使ってもらってよい、それらの決定権があるのは著作権者ただ一人だ。

もちろん実際には、製作費や相場をはじめ諸事情を無視することはできないから関係者と相談して決めるのだが、決定権は著作権者のみがもっていることを覚えておこう。

したがって、ネットでみつけた写真やイラストを著作権者に断りなくダウンロードして使うのは違法だ。そして財産権を侵害したことで損害賠償請求の対象になる。

引用とはなにか

次は、引用とはなにか。

『自説を補強するために、他人の文章の一部や画像を断りなしに使うこと』だ。

他人の著作権を侵害しかねない行いだから、引用にはルールが定められている。法律で定義が定められたのは、昭和55年のマッドアマノのパロディー事件の最高裁判決で。長い判決文のうち重要なのは次の2点。

  1. 引用する作品と、引用される作品とが、明瞭に区別されていること。
  2. しかも、両者に主従関係があること。

この2つを踏まえていれば法的に引用になると定義された重要な判決だ。①だけでなく②も重要だから気をつけてね。

しかしながら、クラウドワークスでまとめ記事を書いている1円ライターには、これだけでは具体的にどうすればいいのか分からないようだ。

引用と認められる要件は

そこで「引用の正当な範囲」を文化庁が以下のように分かりやすく解説し、書き方を指南しているから、1円ライターの方々はこの通りに実行してください。

  1. 引用する必然性があること。
  2. 改変をしないこと。
  3. 自分の著作部分と引用部分とがカッコなどで区別されていること。
  4. 自分の著作部分と引用部分との主従関係が明確であること。
  5. 出所の明示がされていること。

引用する必然性とは

単に「その画像が自分のブログ(サイト)記事に必要だから」というだけでは引用の必然性があるとは認められない。自分の記事に必要な画像なら費用を払って使わせてもらうのが筋だからね。これが最も重要なことなので頭にたたきこんでおこう。

例として、ぼくの写真をパクったまとめサイトのスクリーンショットを貼っておく。

写真を無断転載したまとめサイト

このまとめサイトは、芸能人の田中裕二に関する記事に、彼の出身校の日本大学藝術学部の写真が必要なので、ぼくのブログ記事から無断で転載した。

日藝の写真が必要なら、ライターが自分で練馬区江古田へ足を運んで撮ればいい。

それができないならカメラマンに料金を支払って撮りにいってもらうか、大学に問合せて広報用の写真を分けてもらうか、レンタルフォトサイトにあればそれを借りて使うこともできる。出版社はそうした順法的方法をとっている。

しかし、まとめのライターはぼくのブログから写真をダウンロードして貼りつけた。

この写真を引用することが認められるためには『有賀正博という人が撮影したこの日藝校舎の写真を引用しなければならない理由』を説明できなければならない。

もし、他の人が撮影した日藝の写真に置きかえても用が足りるなら、それはぼくの写真を引用する必然性が無いということだ。これでは引用とは認められない。無断転載だ。

なお、このまとめサイトには写真使用料1.5万円を請求して支払ってもらった。振込後に写真の使用許諾を与えたのだが、その後しばらくしたらサイトそのものが閉鎖された。パクリサイトの運営はよくないことだと気がついたようだ。

改変しないこととは

文章ならもとの著作物からそのまま抜き書きすること。文章の表現を変えるのはNG。句読点の位置を変えるのもNG。
画像は、修正したりスペースに合わせて端をカットするのはNG

そんなことをしたら著作権法20条 同一性保持権の侵害になる。すると損害賠償請求に加えて慰謝料請求の対象にもなってしまい、一層ややこしいトラブルに発展するから絶対にしないようにね。

同一性保持権の侵害とは『画像も文章も、作者が完成作品としてアップしているのだから、これを自分の都合でいらない部分を勝手に削除したり変えたら、作者が気分を害すし違法です』ということ。どんな形でも作品を改変するには著作権者の意向を無視してはいけないのです。

主従関係が明確とは

文章の場合は、記事本文に対して、引用される文字数が圧倒的に少ないこと。ブログ記事ならだれもが引用として認める範囲は数行程度。それより長くてもよいが、記事本文より引用部分が多いのはNG。

画像の著作権はどこまで及ぶのですか?と質問を受けるが、画像は「主従関係」を構成することが難しいため引用が認められることがほとんど無い。「出典」など書き方をどう整えても通用しない。画像を引用するのは無理だと考えた方がよい。

例外は、その画像を評論する記事。画像の引用が書籍でなされた具体例はこちら。

福井健策著「著作権の世紀」

福井健策著「著作権の世紀」から。

福井健策氏は著作権法の権威。本書に掲載された図版はすべて引用だから著作権者の許可を得ていてないそうだ。出版前に、編集者が著作権者に許可をとろうとしたが、福井氏がこれは引用だからその必要はないと止めたとのこと。

ちなみに当ブログは上の複写を福井氏の許可をとらずに掲載している。

出所の明示とは

【出典】とは引用元全体のこと。書籍なら本そのもの、WEBならサイトそのもので、記事が書いてあるページのことではない。書籍から引用するなら書籍名・著者名・出版社名を記すこと。WEBからの引用ならサイト名を記しリンクを張ること。nofollowタグの使用はレッドカード。

上の1〜5の全てに沿っていれば、引用は著作権者にいちいち断ることなく引用してよいと法律で認められているのだ。

ひと言でまとめると引用は〜目的上 正当な範囲内 で行なわれるものでなければならない。(著作権法32条1項)

ということ。くれぐれも『正当な範囲』を自分で決めないようにね。

引用は作者の断りなしにしてもよいワケ

引用をいちいち断らずにしてよいのには、ちゃんと理由ある。

a.社会的に公平にみてそのほうが合理的な場合

1冊の書籍から2〜3行の文章を引用をするために、いちいち作者と連絡がとれるまで待っているのでは時間がかかりすぎるし、間に立つ人の仕事がむやみに増える。作者も問合せを受けていちいち返事をする義務があったら生活に支障がでる。

b.ある作品を評価や批評するとき

ある絵画の批評記事を読んでいて、記事内にその絵画が示されていなかったら、いったい何について批評しているのかが分からない。それでは完成度の高い批評文が望めないから絵画を引用して示すことが必要。とくに報道の分野がこれ。

c.転載を拒否されても載せたいとき

作品を批判する記事には、作者から転載の許可はまずでない。許可がなければ批判ができないようでは健全な批判文化が育たない。社会には批判文化が必要で、表現の自由は憲法で保障されている。だから許可なくして引用できるようにする。

仮に許可を求めて断られたら「許可しないと言ったはずだ」とややこしいトラブルになりかねないから、許可を求めないほうがよい。引用したことを著作権者に伝える必要もない。やはりとくに報道の分野がこれにあたる。

というわけで、社会的に公正ならば、著作者に無断で作品の一部を載せる引用は、正当なものとされる。しつこいようだが引用する際は文化庁のガイドラインを踏まえること。

著作権のグラデーション領域

著作権には、侵害しているブラックな状態と、侵害していないホワイトな状態のあいだに、幅広いグラデーションの領域がある。

著作権は、違法か適法かを必ず判断できるかというとそうでもない。どっちにもとれるケースも多い。パロディや、コミケで売られている同人誌の二次創作はその一角。二次創作は本当に楽しくてぼくは好き。

慣習的に同人誌はブラックっぽいけど大目にみられているというかまったく野放し状態。この広々としたグラデーション領域をみんなが楽しんでいて、日本独特の二次創作文化が花開いている。

こうした同人誌の二次創作文化が世界から注目されるほど盛んになることができたのは、同人誌作者がオリジナル作品をリスペクトしていることを原作者が分かっていること、そして関係する人たちみながオリジナル作品のファンで楽しんでいるというポジティブな理由がある。

ファンが集まっている同人誌の世界で著作権を主張するのはヤボだ。著作権者も含めて皆がそう思っているからここでは著作権侵害が大きな問題にはなっていない。

今のところブラックとホワイトの境界はグラデーション領域で、明白に分かつ線は引かれてない。そこへ、まとめサイトやライターが自社の利益のために領域に侵入してかき回すと、いずれ裁判所がここにも確固とした境界線を引くことになり、誰も望まない息苦しい社会になってしまうかもしれない。

『引用・出典』の枕詞は必要か

引用・出典元の表記は必ず必要だ。しかし、枕詞として『引用』『出典』といちいち表記する必要はあるのだろうか。例えば下記の場合はどうなのか。

写真をフォトストックサイトから借りた場合

feelyという女性向けサイトは、掲載写真に「出典:Photo: nata_vkusidey | iStock | Getty Images Plus」と記している。

Feely 32

ここには「出典: 撮影者名 | 販売代理会社名 | 販売プラン名」が記されている。つまりiStockは販売業者であり、feelyは料金を支払って写真を掲載しているのだから出典元とはいえない。

feelyのスタッフは「出典」という言葉の意味を理解せずに使っていることが分かる。

この場合、写真のクレジットの常識的な記述は「写真: nata_vkusidey , iStock , Getty Images Plus」とするのが適当だ。この書き方なら、誰が写真を撮影し、 どこが販売しているかが明確になる。

WEBサイト制作業者はこのように表記の基本を知らない人が多いらしく、無闇に「出典」と書いている。そこにコミュニケーション関連の知見の浅さが見てとれる。出版媒体に比べてインターネット媒体が今も軽く見られている原因のひとつだと思う。

自分が出演した番組なのにクレームされた?

昨年12月8日のTBS NEWS23「まとめサイト問題特集」でぼくは事務所で取材をうけて放送された。そのときのキャプチャを載せて同日のブログにアップした。

TBS NEWS23のまとめ記事特集

そしたら「このキャプチャはTBSの番組の無断転載ではないか」とからんでくる人がいた。無関係なネット民だが、この指摘は二重に間違っている。

まず、ブログ記事タイトルが「TBS NEWS23に出演しました」で、記事内容がTBSの取材のことを明記しており引用要件を満たしている。TBSの取材者にもブログに載せることを伝えている。そのうえ写っているのはぼく自身だから肖像権もなんなくクリア。

もうひとつは、テレビ画面のキャプチャは必ずしもテレビ局の営業権を侵害しているとはいえないことだ。

一部のまとめライターは、まとめサイトの無断転載問題を取りあげたぼくのことが気にくわないらしく、こんなふうに因縁をつけてからんでくる。自分が不法活動をしていることを棚に上げて、ムシャクシャして八つ当たりしているみたいだね。

その一方で「NAVERの悪質さがよくわかりました。自分が書いたまとめ記事はすべて削除しました。もうまとめ記事は二度と書きません」とメッセージをくれる人もいるから、ちゃんとした人には当ブログが役立っているのだと思う。

SNSは自由にシェアしてよい

ところで、FaceBookをはじめSNSの記事シェアは、シェアボタンを押してするのであれば本人に断りなくしてよい

。「それって当たり前」と思うでしょう? 

でも実際に「投稿は挨拶なくシェアしてはいけない」と思い込んで「シェアさせていただきます」というコメントをする人が少なくない。そのひと言は必要ない。必要ないどころか、スレ汚しと嫌がられる。

シェアは、引用でも転載でもない

SNS内でのシェアや引用リツィートは推奨されている。自分のブログに埋め込みたければ簡単にコードを取得できる。

ただし画像をダウンロードして自分のサイトにアップすることはできない。それは違法なパクリだ。SNSの画像を自分のサイトに貼るときは必ずSNSが発行した埋め込みコードを使わなければならない。SNSの転載はこうしたルールがある。

最後に話を一行にまとめると、引用とシェアはルールに沿って無断でするもの、転載は許可を得てするもの。この区別がつかない人、ルールを守れない人は、どちらもしないほうがよい。

LINE株式会社の人たちはわかりましたか。

ブログ内の関連記事

Sponsored Links